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![]() ![]() 探求: 電撃蚊取りラケット Handheld Fly Zapper・Fly Mosquito Killer・Wand Bug Swatter ![]() 〜 しくみと回路測定から、壊れなくする改造まで 〜 (改造費用0円!?) * 記事を掲載 2008/9/11
* 能力一覧表を掲載 2008/9/12
「電撃蚊取りラケットがすぐ使えなくなる」という投書があり、それほどヤワな物なのかと色々と購入して調べてみました。
![]() ![]() 分解するとこの写真のように小さな昇圧回路が載った基板が入っています。 電源は単三電池を2本使用するものがほとんどのようです。 3Vの電源から約1000V以上の高電圧を発生させて、それをラケットの金網の部分に通電しておいて蚊を叩いて感電死させるものです。 蚊が金網に触れると「バチッ!」や「パーン!」という大音響と共に高圧放電の白い火花が飛び一瞬にして蚊は感電して死んでしまいます。時と場合によっては焼けて飛散してしまって死体すら残りません。 ![]() 金網部分は初期の頃は数ミリおきに平行に金属棒が置かれていたのですが、それだと棒の間を蚊がすり抜けてしまう事があり正確に撃退できなかったので最近のものは写真のような3層構造になり、1・3層目(表面)と2層目(内側)でパターンを変える事により、蚊は表面と内側の金網により「引っかかり」やすくなり確実に両電極に触れて感電するように改良されています。 これにより人間が指で触っても両方の電極に同時に触れにくくなり、感電する確率が低くなっています。 しかし、強く押しながらだと・・・やはり感電します。(すごく痛いです) どの製品にも「感電しますので金網部には触らないでください」のような注意書きがあります。触らないようにしましょう!
![]() 株式会社マクロス / MADE IN CHINA ![]() ドン.キホーテで購入したもの。498円。 ![]() 他の部品配置にもできるよう、パターンとランドが多少多いです。 ![]() 二次側(高圧側)は半波整流で0.47μFのコンデンサに約1300V(電池新品時)の高電圧をチャージしています。二次電圧1300Vに対してフィルムコンデンサの耐圧は630V。耐圧の約2倍の電圧をかけていることになります。 ダイオードが二本直列になっているのは耐圧を稼ぐ為でしょう。 ブリーダー抵抗は22MΩと非常に高い値ですが、スイッチを切ると数秒で放電完了しますので数秒後なら触っても安全です。但し抵抗負荷が付いているぶんチャージ時は最高電圧に上がるまでやはり数秒かかります。 ![]() 販売元: 株式会社フィフティ / MADE IN CHINA ![]() ドン.キホーテで購入したもの。598円。 ![]() やはり他の部品配置にもできるよう、パターンとランドが多少多いです。 今回の中では唯一ガラス基板でしたが、製造時期によりベークだったりガラスだったりするようです。 ![]() 二次側(高圧側)は半波整流で0.33μFのコンデンサに約1000V(電池新品時)の高電圧をチャージしています。二次電圧1000Vに対してフィルムコンデンサの耐圧は400V。耐圧の約2.5倍の電圧をかけていることになります。 ダイオードが二本直列になっているのは耐圧を稼ぐ為でしょう。また直列に30KΩの抵抗が入っているのは負荷を軽くする為? ブリーダー抵抗は22MΩと非常に高い値ですが、スイッチを切ると数秒で放電完了しますので数秒後なら触っても安全です。但し抵抗負荷が付いているぶんチャージ時は最高電圧に上がるまでやはり数秒かかります。 ![]() 企画/販売: ミドリ産商株式会社 / MADE IN CHINA ![]() ホームセンター・オージョイフルで購入したもの。398円。 ![]() やはり他の部品配置にもできるよう、パターンとランドが多少多いです。 ![]() ほかと違うのは二次側が「2倍圧整流回路」になっている点です。 2倍圧整流で0.033μFのコンデンサに約1500V(電池新品時)の高電圧をチャージしています。二次電圧1500Vに対してフィルムコンデンサの耐圧は1000V。耐圧の約1.5倍の電圧をかけていることになります。 ブリーダー抵抗は15MΩと非常に高い値ですが、スイッチを切ると数秒で放電完了しますので数秒後なら触っても安全です。但し抵抗負荷が付いているぶんチャージ時は最高電圧に上がるまでやはり数秒かかります。 ![]() 販売元: コーナン商事株式会社 / MADE IN CHINA ![]() ホームセンターコーナンで購入したもの。コーナンブランドの電撃殺虫器です。398円。 ![]() 一見して他の昇圧回路とは違うという事が見て取れます。 ![]() ほかと違うのは二次側が「3倍圧整流回路」になっている点です。コンデンサやダイオードが沢山付いていますが、これらがトランスの電圧を更に3倍に上げる特殊な回路となっています。 3倍圧整流で0.022μFのコンデンサに約2500V(電池新品時)もの高電圧をチャージしています。電圧2500Vに対してフィルムコンデンサの耐圧は1500V。耐圧の約1.67倍の電圧をかけていることになります。 しかもブリーダー抵抗はありません! ほぼ一瞬で2500Vの高電圧をチャージしますし、スイッチを切っても放電経路が無い為に高電圧がチャージされたままになります。安全な電圧まで自然放電するまで数分以上はかかりますので、スイッチを切ったからと言って安心はできません。 ![]() 不二貿易(株) / MADE IN CHINA ![]() 日本橋のパソコンパーツショップとホームセンターTRIALで購入したもの。480円/198円。 ![]() しかし付いている部品が少し違います。 ![]() 回路はブロッキング発振回路方式のトランス昇圧回路。 一撃!電撃殺虫ラケットと同じ基板ですが、発振回路用のトランジスタが違い、それにあわせてベース抵抗の値も変えられています。 二次側(高圧側)は同一の半波整流ですが整流用ダイオードと直列に2KΩの抵抗が入れられています。ダイオードが二本直列になっているのは耐圧を稼ぐ為でしょう。 コンデンサは最初に買った製品では0.47μF、二本目は0.33μFと違う容量のものが付いていました。 二次側ではコンデンサに約1500V(電池新品時)の高電圧をチャージしています。二次電圧1500Vに対してフィルムコンデンサの耐圧は630V。耐圧の約2.38倍の電圧をかけていることになります。 ブリーダー抵抗は22MΩと非常に高い値ですが、スイッチを切ると数秒で放電完了しますので数秒後なら触っても安全です。但し抵抗負荷が付いているぶんチャージ時は最高電圧に上がるまでやはり数秒かかります。
5種類の電撃蚊取りラケットを分解してみたわけですが、昇圧回路として見れば基本的な回路構成は同じです。
低圧側のブロッキング発振部と、高圧側の整流・充電部に分かれているわけですが、これらの中から壊れそうな物を探してみましょう。 ● 低圧側 ![]() 乾電池の電圧で動作する低圧側には「トランジスタ」と「抵抗」「トランス」があります。 電源ONの表示用のLEDと抵抗はまず故障しません。中国製なので品質の悪いハンダでハンダづけ不良の可能性はありますがその場合はLEDが点灯しないだけで電撃性能が低下することはまず無いでしょう。 全体として見ればやはりハンダ不良で故障しそうな基板に見えますが、それが「一年程度で性能が落ちる」という事にすぐに繋がっているのでしょうか。 何本も買い換えてみて同じ症状が出るという事ですので、特定の同一製品だけがハンダ不良ですぐにだめになるという可能性も捨てきれません。 部品の故障で考えると「トランジスタに無理な大電流を流していてじきに焼けてしまう」という事が最も確率が高いと考えられます。 トランスはこのタイプの超高圧発生用だと一次コイルはかなり太くて抵抗値も低いので、そう簡単に焼けたり切れたりはしないはずです。 だとすると壊れそうなのはやはりトランジスタですね。 ● 高圧側 ![]() 高圧側で最も疑わしいのはコンデンサです。 どの製品も出力電圧に対して耐圧が足りないコンデンサばかり使用しています。 「そりゃ耐圧より高い電圧を加えたら壊れるでしょ!」と思ってしまいますが、なにぶん使用されているのはフィルムコンデンサの為、ちょっとくらい耐圧を超えても瞬間的に壊れるものではなく、長期間使用してじわじわと性能が落ちるような壊れ方をするものと思われます。 一回につき数秒〜数十秒の使用で、ほとんどの製品はブリーダー抵抗が付いていますのでスイッチを切ればたちまち放電してしまうので実際に耐圧を超える高電圧がかかっている時間は短いのです。 常に電源が入っている家電製品のような物なら耐圧越えでコンデンサを使ったらたちまち性能劣化してしまうでしょうが、この程度の短時間使用であればそれほど急速に壊れるものでは無いと思うのですがどうでしょうか。(こういう「大丈夫ちゃうのん?」って考え方は中華製品的な思想ですね・・・) 整流用ダイオードばどれも耐圧1000V品が使われていますので、さすがにいきなり壊れてしまう半導体であるダイオードには中華製品でも気を使っているようで、2本直列にするなどして耐圧を超えないように配慮されています。 ですのでダイオードが壊れてしまう事はあまり考えにくいですが、長期間使っているとやはり壊れる原因になるかもしれません。でもこれも数秒〜数十秒程度しか高電圧を加えないのであれば、ほぼ安全圏だと思います。
それでは、各昇圧回路基板の消費電流や昇圧能力(二次側高圧電圧)などについて確認してみましょう。
これらの回路ではブロッキング発振回路で電流を断続的に流しているため、テスターの直流電流レンジでは正確な電流情報は読み取れません。(ほぼ平均値に近い値は出るのですが・・・) そこで電流測定プローブを接続してオシロスコープで電流波形を観測します。 この電流はほぼトランジスタのコレクタ電流になりますので、トランジスタの定格を超えていればトランジスタの劣化の原因となります。 出力電圧は、まずはトランスと整流部(ダイオード等)を切り離して開放状態でどのようなパルスが出力されているのかを調べます。 それとは別に元の回路の状態で何Vがコンデンサに溜められている電圧かも高電圧プローブで測定します。こちらはオシロスコープで見てもほぼ一直線になる為画像を見ても面白くありませんので画像は割愛します。 ● 一撃!電撃殺虫ラケット ![]() ![]() 昇圧パルスは約1800V(p-p)、平滑充電後の出力電圧は約1200〜1300Vです。 ※ p-pとは、「ピーク トゥ ピーク」で波形の下限から上限の間の最大値です。
発振周波数は約3.33KHz。使用されているトランジスタはS8050ですのでIc=700mA(標準)ですから、ちょっと無理をさせているっぽい回路ですね。 トランジスタの表面温度は30秒で60℃まで上がりました。パルス駆動の為電流値や温度関係ではなんとか定格内で収まっているという感じでしょうか。 普通に一回の使用が30秒程度以下ならすぐに壊れるという事は無さそうです。(何分もスイッチを押しっぱなしにするとどうなるか…) ● 電撃ラケット・カットリ君 ![]() ![]() 昇圧パルスは約2200V(p-p)、平滑充電後の出力電圧は約1000Vです。 発振周波数はかなり高く約23.8KHz 使用されているトランジスタは2SD965ですのでIc=5A(標準)ですから全然平気です。D965はストロボ用なのでこの回路の用途にはぴったりですね。 トランジスタの表面温度は30秒で52.6℃まで上がりました。 普通に一回の使用が30秒程度以下ならすぐに壊れるという事は無さそうです。(何分もスイッチを押しっぱなしにするとどうなるか…) ● ナイス蚊っち ![]() ![]() 昇圧パルスは約1600V(p-p)、平滑充電後の出力電圧は約1300〜1500Vです。 発振周波数は約3.33KHz。 使用されているトランジスタはS8050ですのでIc=700mA(標準)ですからまぁ連続で使用しなければ大丈夫といった感じでしょうか。 今回比較した中では最も消費電流は低いほうでしたし。 トランジスタの表面温度は30秒で30℃まで上がりました。発熱も少ないです。 普通に一回の使用が30秒程度以下ならすぐに壊れるという事は無さそうです。(何分もスイッチを押しっぱなしにするとどうなるか…) ● 電撃殺虫ラケット(コーナン) ![]() ![]() 昇圧パルスは約2500V(p-p)、平滑充電後の出力電圧は約2500〜2700Vです。 発振周波数はかなり高く約14.3KHz 使用されているトランジスタは2SD965ですのでIc=5A(標準)ですから全然平気です。 トランジスタの表面温度は30秒で42.0℃まで上がりました。 普通に一回の使用が30秒程度以下ならすぐに壊れるという事は無さそうです。(何分もスイッチを押しっぱなしにするとどうなるか…) ● ビビッと蚊取リーヌ ハエトリーヌ ![]() すみません、標準状態での測定画像はありません。 なぜなら・・・購入後数分で壊れてしまったからです。 パッケージから取り出して、電池を入れて「まずは動作テスト」とばかりに数回スイッチを押しました。 3〜4回目に突然「キーン!」という発振音が巨大音量で発生しはじめ、その音は隣の部屋に居ても大きく聞こえるくらいです。 普通はラケットの柄の部分に耳を近づけないと聞こえないはずの回路発振音が、まるでスピーカーでも入っているような大音量で鳴り始めたので「これは何事!?」と思い細かくスイッチを切ったり入れたりして自然に直らないか試してみたところ、断続使用で合計約20秒くらいは鳴っていた音がぴたっと鳴り止みました。 そこはかとなく半導体が焼けた香ばしい香りが漂っています。 「どこか接触してたかハンダ不良?」と思いましたが「まぁ直ったみたいだし実験続行!」と基板に高圧プローブを繋いで出力電圧を測ってみたら・・・ 出力たったの110V!?
最初は数値の見間違いかと思いましたが、一桁違いますよ奥さん!調べてみましたが、実使用数十秒でトランジスタが虫の息です・・・。 ![]() トランジスタは一応動作していますが極端に性能が落ちています。 そこで壊れた2SD965を手持ちのストロボ用トランジスタ2SC5706と交換して動作チェック。 無事蚊を落とせる電圧が出るようになりました。 どうやらトランジスタが最初から不良品だったような感じですね。 既に一度分解しちゃってますし、もし分解していなくてもお店に持って行って「電圧が足りない、蚊が落とせないんですけど?」と店員さんに言っても果たして故障だと理解してくれるかどうかも疑問ですので、そのままトランジスタを交換した状態で使用することにします。 後日、「ホームセンターTRIALで198円」という情報を頂きもう一本購入しましたが、こちらは一斉に電気試験をしたりオシロ写真を撮るタイミングを逃しましたので基板のチェックだけに留めています。 もちろん何度もスイッチを入れて使用してみましたが「キーン!」とは言わずに普通に使えています。 これは「ひと夏程度で使えなくなる」という症状とは全くの別物で、単なる初期不良品だったと思います。 ※ こちらの方のブログにも「蚊取リーヌのトランジスタが壊れた」という記述がありますので、やはり蚊取リーヌは元からちょっと・・・なのかもしれません。 ◇ ◇ ◇
さて、回路そのものと電流値などを見ると、一部にちょっと定格オーバーっぽい使い方をしている物がありますが、それが果たして「ひと夏程度で使えなくなる」ものなのか、「早いものは一ヶ月で目に見えて弱くなる」という原因になっているのか? 私的には数値を見る限りは「一ヶ月で」などはかなり半信半疑の状態になってしまいましたので、各回路を一ヶ月程度使ってみたらトランジスタやコンデンサが劣化してしまうのかを調べてみることにしましょう。
「一ヶ月程度で使えなくなる」という事ですので、果たして一ヶ月使用でトランジスタ等の部品が劣化してしまうのかテストしてみます。
一ヶ月毎日全部の電撃ラケットを手作業で使うのでは効率が悪いので、ここではタイマーで自動で回路に電流を流し、その際の消費電流や出力電圧に変化が起きるのかを調べてみます。 ![]() ● 一回の使用時間(電源ON時間)は10秒 ● OFFから次のONの間は20秒空ける ● 一日に10回程度使用する ● 一日間隔の代わりに15分空ける(実験時間短縮) ● 30日間ぶん使用する という依頼者様の使用環境にあわせてテストします。 ● ラケットの電源はアルカリ乾電池2本(新品) アルカリ乾電池を使用して、電池がすぐに無くなってしまって弱くなるのかどうかもあわせて検証できます。 グラフの赤色は電源電圧です。使用回数に対して電池の減り具合がわかります。 グラフの緑色は消費電流です。電圧と合わせて消費電力等がわかります。 グラフのオレンジ色は昇圧出力です。電撃のパワーがわかります。 画像では棒のようになっている部分一本で一日ぶん(10回使用)を表しています。 10回ぶんのグラフを重ねている為棒のように見えています。 ● 一撃!電撃殺虫ラケット ![]() ![]() 消費電流は電源電圧に従ってわずか下がりますが、特に回路が壊れてしまったような様子は確認できません。 昇圧出力も電源電圧に従ってわずか下がりますが、蚊を退治するのに支障が出るような劣化は見られません。 また、使用前と300回使用後にコンデンサの容量を測定しましたが特に劣化している様子は見られませんでした。 総じて、一ヶ月300回程度ではこの基板・回路は劣化しない事が観測できました。 ● 電撃ラケット・カットリ君 ![]() ![]() 消費電流は電源電圧に従ってわずか下がりますが、特に回路が壊れてしまったような様子は確認できません。 昇圧出力は最初の頃に少し上がったり下がったりして不安定ですが電源電圧が高いうちは発振が不安定なのでしょうか。電源電圧が少し下がると安定します。蚊を退治するのに支障が出るような劣化は見られません。 また、使用前と300回使用後にコンデンサの容量を測定しましたが特に劣化している様子は見られませんでした。 総じて、一ヶ月300回程度ではこの基板・回路は劣化しない事が観測できました。 ● ナイス蚊っち ![]() ![]() この回路が今回テストしたラケットの中では最も消費電流が少ない為、電源電圧の低下(電池の消耗)も少なくなっています。 消費電流は電源電圧に従ってわずか下がりますが、特に回路が壊れてしまったような様子は確認できません。 昇圧出力も電源電圧に従ってわずか下がりますが、蚊を退治するのに支障が出るような劣化は見られません。 また、使用前と300回使用後にコンデンサの容量を測定しましたが特に劣化している様子は見られませんでした。 総じて、一ヶ月300回程度ではこの基板・回路は劣化しない事が観測できました。 ● 電撃殺虫ラケット(コーナン) ![]() ![]() 消費電流は電源電圧に従ってわずか下がりますが、特に回路が壊れてしまったような様子は確認できません。 昇圧出力も電源電圧に従ってわずか下がりますが、蚊を退治するのに支障が出るような劣化は見られません。 また、使用前と300回使用後にコンデンサの容量を測定しましたが特に劣化している様子は見られませんでした。 総じて、一ヶ月300回程度ではこの基板・回路は劣化しない事が観測できました。 ● ビビッと蚊取リーヌ ハエトリーヌ ![]() 購入後数分で壊れてしまったので測定不能。 (後日購入した品は正常に動作しています) これらの測定結果から、一日に10秒間×10回程度の使用であれば、一ヶ月使用しても回路・部品は故障しないであろう事が判明しました。 また電池の消耗についてもこの程度の使用頻度であれば夏場の2〜3ヶ月はそれほど出力電圧が落ちずに通常の範囲で使用できることも分かりましたが、心配な方やもっと使用頻度が高い場合は適宜電池を新品に交換したほうが強力に使えるでしょう。 もっと違う使い方で、一回の使用で分単位でスイッチを押しっぱなしにする等では、トランジスタの温度が高くなって劣化を早めることが予想されます。 またON時間を長くする事でコンデンサの耐圧を越えた過電圧での使用時間も長くなり、コンデンサが劣化して十分に電気を蓄えられなくなって放電時の威力が弱くなる可能性もあります。 それぞれのご家庭での使用形態により今回の実験とは異なった劣化が起きる可能性は否定できませんので、もし「すぐに使えなくなる」という場合は使い方にも注意してみてください。
さて、電撃蚊取りラケットに使用されている昇圧回路の耐久試験では適度に使用しているうちは回路・部品はほとんど壊れないことがわかりました。
それではもっと他に電撃蚊取りラケットには故障する個所は無いのでしょうか? 回路基板以外の部分に目を向けてみましょう。 ● 電池ボックス ![]() ![]() 電池ボックスは非常に簡易な構造になっていて、使われている金具もかなり品質の悪い金属が使用されています。 ただ、一ヶ月程度で金具が酸化して導通が悪くなるほどのものではありません。 一年ほど湿気の高いところに放置するなどしてしまうと電気を通しにくくなってしまう可能性はありますので、去年の電撃ラケットを使用するような場合は電池ボックス内の金具をアルコールティッシュなどで磨いてやったほうが良いかもしれません。 金具の表面が錆びていたり、白くもやっとしていたら要注意です。 ● 電気配線 ![]() 電池ボックスから電気を回路基板に送る為の電気配線はこれでもか!と言うくらい細くて貧弱なケーブルが使用されています。 今回測定した中では最大2500mA(p-p)という大きな電流を流していますが、ちょっと心もとないですね。(一応電気は流れていますが) また使用されているハンダも中国製品特有のヤニ無しハンダで仕上がりはボソボソです。 ちょっとケーブルを引っ張るとポロッと外れてしまった製品もありましたので、蚊取りラケットを振り回しているうちに何かのショックでハンダが外れてしまったり、弱くなって電気抵抗が増えてしまう故障が考えられます。 ● ネット(金網)? ![]() 金網も錆びたり表面が酸化すると電気を通しにくくなりますので、放電の際の威力が弱くなることが考えられます。 しかし私のほうでは一年や二年程度でこの金網がどれくらい酸化するのか確認はしていませんので、材質を見る限りは特に白く変色したりしていない限り大丈夫だと思います。 三層構造のために分解して中の中間層を掃除したりするのは大変面倒ですので、一般家庭ではネットが劣化した場合は買い換えたほうが早いかもしれません。 またこれは大変重要ですが、蚊を叩いて屍骸がネットの間に残っている場合は綺麗に取り除いてください。 何かがネットの間に挟まっていて、電極の間で導通してしまっているとせっかく昇圧した電気をショートして流してしまい、コンデンサに溜めて電撃を放つ事ができなくなります。 ネットに異物が付いている時には、電源スイッチOFFからじゅうぶんに時間が経って安全になってから、ブラシ等で異物を掃き外してください。 ● スイッチ ![]() 写真のもの(コーナン)では二重安全装置としてスライド式の電源スイッチと、プッシュ式の動作スイッチを直列に接続しています。 不意にプッシュスイッチが何かに当たって電源が入り、知らずにネットに触ってしまって感電することを防止しています。 それ以外の電撃ラケットはプッシュスイッチしか無く、知らないうちに押してしまっていて感電する危険性があります。 ※ これら以外の電撃ラケットでも電源スイッチのあるもの/無いものがあります ・・・? 使われている部品をよーく見ると、どの電撃ラケットもプッシュスイッチは「タクトスイッチ」と呼ばれる電子回路基板などで信号入力用に使われる小型スイッチです。 普通は基板にハンダづけして固定するものですが、それを無理やりはめ込むような形にケースに受け口を作って固定しています。 ちょっと待ってください。 一般的な(有名メーカー製の)タクトスイッチは電流容量は50mAですよ! 使われている中国メーカー製らしいタクトスイッチがそれより何十倍も電流容量があるとも思えません。 ![]() 形が少し大きいとはいえ(差はわずか1〜2mmですし)接点容量は有名メーカー製では小さな物と代わりありませんので、特にこの写真のタクトスイッチが電源用の大容量品ではなさそうです。 という事は、定格50mAのスイッチに平均で10倍程度、ピーク時には最大50倍もの電流を流しているという事ではありませんか! これはスイッチが焼けませんか? なんて無茶な部品選択!? 依頼者の方にメールしてみると「確かに、スイッチが壊れたので分解して中の金属板を磨いてまた使っています。」との事。 がーん! (だったら最初からそういう情報も伝えて欲しかった・・・) 「使えなくなった」という蚊取りラケットがまだ有るというので送って頂きました。 しっかりと、スイッチが焼けていました。 かなり接点が痛んでいますが、全然電気を通さないというわけではありません。 指の力加減によって流れる電流の量が多少変化します。 焼けて接点の抵抗値が大きくなっていて、発振回路に大きな電流は流せなくなっています。少しだけ発振はしますが出力電圧はたいして上がりません。もちろん蚊は落とせません。 スイッチの抵抗値が大きくなってもある程度の電圧は基板にかかりますので、電源表示のLEDは少し暗いですが点灯します。 依頼者様曰く「LEDは点灯していたので当然回路もちゃんと働いていると思っていた。」だそうです。 そうですよね。パイロットランプが点灯していればちゃんと装置としては働いていると思いますよね。 ところがどっこい、多少電圧が下がってもそれなりに点灯するLEDと、ある程度以上の電圧と電流を流さないと大きなエネルギーで昇圧してくれない発振回路と、全く性質の違う回路が同じ基板の上に同居しているだけで、LEDが点灯しているからといって発振回路がフルパワーで働いているという表示ではないのです。 まぁ、罠ですね。 ・・・その後、タイマー装置に更に機能を追加して、ラジコン用のサーボモーターでラケットのスイッチを外部から押してやる装置を作って機械的な30日間の使用試験を行ってみましたが、約半分のスイッチはしっかり故障してくれました。 (ごめんなさい、劣化するかだけ調べたので毎回のグラフは取っていません) 小型のタクトスイッチですので、人間による力のかけ方によって接触面の抵抗が変わったりするので「必ず何回押したら壊れる」等の情報は出せませんが、電撃蚊取りラケットに使われている部品のうち実質一番壊れやすい物は電源のタクトスイッチであろう事が今回の実験から推測されます。 普通に容量1A程度のプッシュスイッチを使用していればこんな問題は起こらなかったでしょうに、やはり中華製品。スイッチ原価を一個数円程度に抑えているのでしょうね。 向こうの国の人にとっては「買った年の数ヶ月だけ使えればいいよ」という製品なのでしょうか。
電撃蚊取りラケットを末永く何年も使うには、「スイッチをマトモな部品に交換する」という手が正攻法ですね。
この記事を書いているうちに「ライト・ランプ・LED 専用「迷い箱」」のほうに使い捨てカメラのストロボを有効活用したい旨の投書があり、使い捨てカメラのストロボ基板を分解してみました。 実は、カメラのストロボ回路のうち発振部にブロッキング発振回路を使用しているものだと、ほとんど蚊取りラケットと回路は同じなのです。 (ですのであちらの回路図も蚊取りラケット用に準備した物を流用…)
しかし面白い発見がありました。 ![]() これなら使い捨てカメラの中の貧弱な金属板で出来た接点でも、ほんのわずかの電流しか流さないので問題無く動作します。(もちろんタクトスイッチでも) もし電源自体を入り切りしているのなら、やはり同じように大電流を流す事で接点劣化の問題が起きる事が想像できます。 この回路図ではベース電流を流さない限りトランジスタには一切電流は流れませんので電池は消耗しません。 (厳密を好む方は「B-E間に抵抗が無いと」と言い出しそうですが) という事は、電撃蚊取りラケットの回路でも、電源スイッチを直接ON/OFFするのではなく、ベース電流をON/OFFする位置にタクトスイッチを換えてやれば小電流用のタクトスイッチでも焼けずに発振動作をON/OFFすることができそうですね。 ![]() トランジスタのコレクタの引き込みでLEDを点灯させる方法にでもしないと「電源ランプ」として役に立ちませんから、右図のような改造はいかがでしょうか? 蚊取リーヌの基板でテストしてみましたが、これでスイッチに流れる電流はわずか平均数mA/p-pでは数十mA程度とどんなにショボいスイッチでも問題は無くなります。 もちろんスイッチOFF時の消費電流は0です。 蚊取リーヌ基板では実際はスイッチはトランジスタのベース位置につけるより、1.5KΩの抵抗のプラス電源側を引き抜いてそこに付けるほうが加工が楽です。 LEDもカソード側の足を抜いてトランス側に別途配線します。(やりたい方はパターンカットして繋ぎ直すのもアリです) * LEDがトランスの逆起電力で壊れないか?という質問を受けましたが、今回テストした基板ではすぐにLEDを壊すような大きな逆電圧はかかっていません。確認した後に記事にしています。 ![]() トランスのL1の+側は電池に直結してしまって、LEDとベース抵抗の+側をスイッチで切ります。 スイッチにはLED点灯用の数mAとベース電流の数mA程度、合計でも少ししか流れません。 こちらの場合はLEDは電源ONそのものの表示になります。 上の改造プランではLEDはトランジスタの発振動作表示となります。 いや、単純に一個100〜200円程度のプッシュスイッチに電源スイッチを交換するほうがよっぽど簡単な加工だとは思いますが・・・これはこれで追加部品は一切無く(配線が少し)、ケース穴も加工せずに全部元からあった物で賄ってしまえる究極のエコノミー(無賃)改造です。いつものように貧乏症の「気の迷い」的改造法(^^;
電撃ラケットの「威力」ってどのくらいのものなのでしょうか?
電撃で蚊を感電死させる物ですから、その電撃の威力を比べてみたいですよね。 電撃(高圧放電)の威力と言ってもいくつかの見方があります。 直感的には「電圧が高い」ほうが威力も大きいと思いますよね。 確かに電圧が高いとそれだけで空間で放電を開始する最短距離が短くなりますので、蚊が2枚の金網に完全に触れなくてもほんの数ミリ離れていても放電が開始される事があります。このほうがネットに蚊を当てた時により的確に仕留められますね。 また電圧が高いほど同じ抵抗値の対象物に流れる電流は大きくなり、電撃の威力は電流の大きさに大きく左右されるとも言われています。 放電をして蚊を感電・焼き殺す際には電気エネルギーを流す事になります。 実際の放電はほんの一瞬ですが、その短時間により多くの電気を流せれば、流れた経路の抵抗に応じて電気エネルギーが熱エネルギーに変換されますので対象(または放電経路)をより高温にすることができます。 放電時に放出されるエネルギーはコンデンサに蓄えられた電気エネルギーです。これがより沢山蓄えられていて放出されれば大きなダメージを与えることができます。 電気が流れてもちょっとしかショックも無く、温度も低いと蚊を殺す事はできません。より多いエネルギーを与える事でより確実に蚊を死に至らしめます。 これらの理屈に対して各ラケットがどの程度の「能力」を有しているのかを一覧表にまとめてみました。
※ 今回調べた基板・部品による計算です
電気量の計算式は Q = C・V です。単位はC(クーロン)です。 仕事量の計算式は U = 1/2・C・V^2 です。単位はJ(ジュール)です。 電気量は電圧・コンデンサ容量に比例しますのでコンデンサの容量が一桁小さい「ナイス蚊っち」と「電撃殺虫ラケット(コーナン)」ではかなり小さくなっています。 単純に出力電圧が高いほうが良いというわけでは無いことがわかりますね。 仕事量の値が実際に放電した際のエネルギー(熱量)を表していますので、どのラケットも似た電圧ですから、これらのラケットの中ではこの数値が高いほど「威力」は高いと考えられます。 仕事量も最も少ないラケットと多いラケットの間には10倍以上の開きがありますね。 電圧を二乗している部分で電圧の大きな物にアドバンテージがあると思われましたが、それ以上にコンデンサの容量の違いが大きすぎて差が縮まっていないような感じです。 上の電気的特性測定で「ナイス蚊っち」が消費電流が最も小さかったわけは、このように蓄えられるエネルギーも少ないのでそのぶん電池からエネルギーを少ししか取り出していなかったというわけです。 電気量・仕事量共にトップの「ビビッと蚊取リーヌ ハエトリーヌ」は購入後すぐに壊れて電気特性の調査ができていませんが、この計算結果から見ても実は最も消費電流が多くてトランジスタにも多大な負担をかけていた為最も部品が壊れやすい製品だったのかもしれません。 コンデンサの容量が小さな物は、コンデンサを大きな容量のものに交換して威力を強めてみるのも良いかもしれませんね。 コンデンサを大きくすると満電圧まで充電するのに時間がかかるようになったり、その他の弊害も出ると思いますので、容量は無茶苦茶大きな物にはせずに適宜調節するほうが良いでしよう。
今回は「電撃蚊取りラケットがすぐに壊れてしまう。すぐに壊れる部品が使われている粗悪品か?」という疑問が投げかけられ、それを調べてみました。
確かに製品は中国製でかなり安物の作りですが、スイッチとコンデンサにかなり定格以上の無理をさせている以外はそれほどすぐに壊れる原因という物は見当たりませんでした。 (初期不良で一瞬で壊れた個体もありましたが・・・) いや、スイッチとコンデンサに大きな負担をかけている時点で電気製品としては既に失格かもしれません。 だいたい500円以下という安価な製品ですので、壊れるから毎年買い換えているという方もいらっしゃるかもしれませんが、もしスイッチの交換などで数年間は使えるのであれば200円プラスくらいでながもちする製品に生まれ変わりますので、工作のできる方はチャレンジしてみてはいかがでしようか。 長く使っているとこんどはコンデンサが劣化しそうですが、耐圧が高くて同じ容量のコンデンサというと大きくなってケースに入らないかもしれませんし、同じ性能を保ったまま安全圏のコンデンサと交換するのはかなり難しいかもしれません。 耐圧を高くする代わりに容量を減らすと、電撃を発する際のエネルギーが極端に落ちますから蚊を一撃で退治できない弱いラケットになりますよね。 高耐圧のフィルムコンデンサ等はそれなりのお値段がしますので、コンデンサを交換するくらいならラケットを新品に買い換えたほうが安く済むなんていう事にもなりかねません。 電撃ラケットは、それほど長期に渡って使用する物ではなく、シーズン毎に買い換えて新品の性能が高いうちだけ美味しく使う物。という考えのほうが気分的にも楽かもしれませんね。 「死んだ蚊の怨念が金網にまとわりついている!」という事で、毎年神社で除霊して廃棄してもらうとか? 見た目ちょっと大きな物ですので、使い捨てるにはもったいない気もしなくはないですが、毎年500円程度の出費なら普通のご家庭ならさほど負担にはならない程度だと思います。 依頼者様のように、ご自分でタクトスイッチを分解されて中の金属板を磨いて再度組み立てるという手先の器用さがあればしばらくは使いつづけることができるでしょう。 エコノミー改造ができる方はスイッチに全く負担をかけなくなりますから、一度試してみてはいかがでしょうか。
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